大阪地方裁判所 平成2年(ワ)9586号 判決 1992年8月27日
大阪府茨木市中津町一二番八号
原告
小川豊
大阪府大東市緑が丘二丁目一番一号
原告
日本フイレスタ株式会社
右代表者代表取締役
小川豊
右両名訴訟代理人弁護士
筒井豊
同輔佐人弁理士
西教圭一郎
同
摩嶋剛郎
大阪府堺市八田寺町四七六番地の九
被告
東洋水産機械株式会社
右代表者代表取締役
松林兼雄
右訴訟代理人弁護士
村林隆一
同
松本司
同
今中利昭
同
吉村洋
同
森島徹
同
豊島秀郎
同
浦田和栄
同
辻川正人
同
東風龍明
同
片桐浩二
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一 請求の趣旨
一 被告は、別紙物件目録記載の魚卵採取装置を製造、販売し、販売のために展示してはならない。
二 被告は、原告日本フイレスタ株式会社に対し、金五〇〇〇万円及びこれに対する平成二年一二月二七日(訴状送達日の翌日)から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 原告小川豊の特許権
1 原告小川豊(以下「原告小川」という。)は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件発明」という。)を有する(争いがない)。
(一) 発明の名称 魚の卵巣取出し装置
(二) 出願日 昭和五八年六月八日(特願昭五八-一〇三一八八)
(三) 出願公告日 昭和六二年七月一七日(特公昭六二-三二八九五)
(四) 登録日 昭和六三年一月二九日
(五) 特許番号 第一四二二三六六号
(六) 特許請求の範囲
「魚頭が除去された魚を所定の軌道に沿って搬送する搬送手段と、その軌道上を走行する魚体の腹部を尾部から頭部へ向かう向きに押圧する腹部押圧体と、その腹部押圧体と上記搬送手段を走行軌道と垂直な方向に沿って互に弾性的に変位させる弾性支持手段とを有し、卵巣をもつ魚体が上記腹部押圧体を通過するときに卵巣が取出されるよう構成された魚の卵巣取出し装置。」(別添特許公報(1)、以下「公報」という。)。
2 本件発明の構成要件及び作用効果(甲二)
(一) 構成要件
(1) 魚頭が除去された魚を所定の軌道に沿って搬送する搬送手段と、
(2) その軌道上を走行する魚体の腹部を尾部から頭部へ向かう向きに押圧する腹部押圧体と、
(3) その腹部押圧体と上記搬送手段を走行軌道と垂直な方向に沿って互に弾性的に変位させる弾性支持手段とを有し、
(4) 卵巣をもつ魚体が上記腹部押圧体を通過するときに卵巣が取出されるよう構成された、
(5) 魚の卵巣取出し装置。
(二) 作用効果(公報6欄3~6行参照)
本発明によれば、魚体の大小等のばらつきにもかかわらず、常に確実且つ卵巣にいささかも損傷を与えることなく、卵巣を取り出すことができる。
二 原告日本フイレスタ株式会社の権利
原告日本フイレスタ株式会社(以下「原告会社」という。)は、原告小川から本件特許権について独占的通常実施権を許諾されており、本件発明の実施品を業として製造、販売している(弁論の全趣旨)。
三 被告の特許権
被告は、函館公海漁業株式会社から次の特許権(以下「被告特許権」といい、その特許発明を「被告発明」という。)を譲受け、平成二年九月一七日その旨の登録を受けた(争いがない)。
1 発明の名称 たら子採取装置
2 出願日 昭和五六年一二月四日(特願昭五六-一九五三〇六)
3 出願公告日 昭和五九年六月二六日(特公昭五九-二六二五七)
4 登録日 昭和六〇年二月一四日
5 特許番号 第一二五〇二四五号
6 特許請求の範囲
「魚体腹部を進行方向に向けて載置移送する移送装置を尾部側が下方に傾斜するように設置し、該移送装置の先端部分に魚頭切断回転刃を設けると共に前記移送装置の少くとも先端部分から前方に向け魚体胴部後側部分を上下両側から挟持する保持移送装置を設置し、前記魚頭切断回転刃の前部には腹腔部を押圧してたら子を絞り出す発条で牽引された押出ヘラを擺動自在に設け、更に該押出ヘラの上下両側には魚体案内片を形成したたら子採取装置。」(別添特許公報(2)、以下「被告公報」という。)
四 被告の行為
被告は、業として、遅くとも平成元年一月頃から、別紙物件目録記載の魚卵採取装置(以下「被告装置」という。)を製造販売している(争いがない。)。
五 請求の概要
1 原告小川は、被告装置が本件発明の技術的範囲に属することを理由に、本件特許権に基づき、被告装置の製造、販売の停止等を請求。
2 原告会社は、被告装置の販売により本件特許権の独占的通常実施権を侵害されたことを理由に、不法行為による損害賠償請求権に基づき、損害金五〇〇〇万円の賠償を請求(後記損害金一億三〇七九万円の内金請求)。
六 主な争点
1 被告装置は本件発明の技術的範囲に属するか。
(一) 本件発明の技術的範囲は、先願の被告発明の技術的範囲を包含しない範囲内に、限定されるか。
(二) 右が肯定された場合、本件発明の構成要件(3)の弾性的変位について、
(1) その変位の態様は、「搬送手段を腹部押圧体に対して変位させる構成」にのみ限定されるか。
(2) その変位の方向は、特許請求の範囲記載文言の字義どおりの直線的な「垂直方向」にのみ限定されるか(円周に沿う「円弧状の略垂直な方向」は含まれないか)。
2 1項が肯定された場合、被告が賠償すべき原告会社に生じた損害の金額。
第三 争点に関する当事者の主張
一 争点1(被告装置は本件発明の技術的範囲に属するか)(被告の主張)
(一) 本件特許請求の範囲にいう「垂直な方向」が原告ら主張の如く円周に沿う「円弧状の略垂直な方向」を含むものと解した場合には、本件発明の技術的範囲は、先願の被告発明(但し、魚頭切断装置部分は除く。)の技術的範囲を包含することになる。同一発明について、先行の特許出願が存在することは、後行の特許出願の拒絶理由であり(特許法四九条、二九条の二、三九条)、かつ無効理由である(同法一二三条一項一号)から、本件発明の技術的範囲は、既に全部公知の被告発明が存在した場合と同様に、その特許明細書記載の実施例と図面の範囲に限定されるべきであり、右明示の実施例に限定されないにしても、先願の被告発明の技術的範囲を包含しないように、後願たる本件発明の特許請求の範囲の記載に基づき定められる技術的範囲は、先願の被告発明の技術的範囲と抵触しないよう、抵触部分を除いた残部に限定されるべきである。
(二) 右両発明における腹部押圧体ないし押出ヘラ及び搬送手段の変位の態様、方向は、次のとおりである。
(1) まず、本件発明をみると、本件発明の特許請求の範囲には、「その腹部押圧体と上記搬送手段を走行軌道と垂直な方向に沿って互に弾性的に変位させる弾性支持手段とを有し、」と記載されているが、この記載だけでは腹部押圧体(及び搬送手段)の変位の態様及び方向について、腹部押圧体と搬送手段の両者が相対的に変位することは開示されているものの、<1>「腹部押圧体を搬送手段に対して変位させる構成態様」と、逆に「搬送手段を腹部押圧体に対して変位させる構成態様」の両者を包含するものか否か、<2>腹部押圧体(及び搬送手段)の変位方向の
「垂直な方向」とは、その記載文言の字義どおりの直線的な「垂直方向」に限り、円周に沿う「円弧状の略垂直な方向」を含まない趣旨か否かといった点についてはいずれも明確にされていない。
そこで、この点を本件特許出願願書添付の明細書及び図面において開示された実施例についてみると、第2・3図の実施例では、「チェーン7の下側走行軌道11には卵巣取出し部15が設けられている。この卵巣取出し部15は、第2図及び第3図に示すように、魚体通路の左右両側に設けられた支柱16、16のスリットに軸17を、スリットの長手方向に変位自在で且つ軸自体回転しないように支持し、その軸17に所定方向に傾斜し先端の稜18が魚腹に切込まない程度丸められた刃19が設けられている。軸17の両端はスプリング20、20により弾力的に支持され、魚体の大小、硬柔に応じて適宜変位する。」との記載(公報3欄20~30行)があり、「チェーン7」が本件発明の構成要件(3)の「搬送手段」に、同じく刃19が「腹部押圧体」に、スプリング20、20が「弾性支持手段」にそれぞれ相当するから、右の実施例では、刃19(腹部押圧体)がチェーン7(搬送手段)の走行軌道に対して『垂直な方向』に変位し、その変位方向を前記図面中第2図を利用して描くと別紙1の1の赤線方向となり、第5・6図の実施例では、「カツタによる切断または引きちぎり等により予め頭部の除去された魚体が、上側コンベア31と下側コンベア32から成る挟持型搬送コンベアにより、魚体の背部が挟持されて、魚尾を先にして搬送され、魚体の腹部に接触する所定位置に、軸に対し回動自在のローラ33が設けられ、コンベア31、32の軌道を規定するガイドローラ34がばね35により弾性的に支持されている。」との記載(公報4欄36~43行)があり、「コンベア31、32」が本件発明の構成要件(3)の「搬送手段」に、同じく「ローラ33」が「腹部押圧体」に、「ガイドローラ34とばね35」が「弾性支持手段」にそれぞれ相当するから、右の実施例では、コンベア31、32(搬送手段)がローラ33(腹部押圧体)に対して、その搬送軌道と『垂直な方向』に変位し、その変位方向を前記図面中第5図を利用して描くと別紙1の2の赤線方向となり、第7図の実施例では、「魚体搬送コンベア41にはチェーンの走行方向Rに対し横方向の魚体搬送具43…43が並設されており、弾性力等により魚体の背部が左右から挟持され、あるいは尾部が係止具で止められている。腹部押圧体44はこの走行方向Rに対し所定角だけ傾斜した縁を有している。従って、頭部を切断除去された魚体が腹部を上にして挟持搬送されてくると、腹部押圧体44が腹部を尾部から頭部の方へ摺動して卵巣を押し出す。」との記載(公報5欄8~16行)があり、右の実施例では、「搬送コンベア41」が本件発明の構成要件(3)の「搬送手段」に、同じく「腹部押圧体44」が「腹部押圧体」に、明確ではないが「腹部押圧体44」自身が「弾性支持手段」にそれぞれ相当するから、右の実施例では、腹部押圧体44が搬送コンベア41(搬送手段)に対して、走行方向R(搬送軌道)に対し『垂直な方向』に変位し、その変位方向を前記第7図を利用して描くと別紙1の3の赤線方向となり、これらの実施例の記載によれば、腹部押圧体と搬送手段とを相対的に変位させる点では共通しているが、腹部押圧体を搬送手段に対して変位させる構成態様と、逆に搬送手段を腹部押圧体に対して変位させる構成態様の両者が開示され、腹部押圧体(及び搬送手段)の変位の方向の「垂直な方向」については、字義どおり「直線の垂直な方向」の構成のみが開示されている。
(2) 他方、被告発明をみると、被告発明の特許請求の範囲には、「前記魚頭切断回転刃の前部には腹腔部を押圧してたら子を絞り出す発条で牽引された押出ヘラを擺動自在に設け、」との記載(被告公報1欄22~24行)があり、右押出ヘラは、<1> 前記魚頭切断回転刃の前部に擺動自在に設けられていること、<2> 腹腔部を押圧してたら子を絞り出すこと、<3>発条で牽引されていること、の限定はあるが、その擺動方向に格別限定はない。また、被告特許出願願書添付の明細書及び図面に開示された実施例では、腹部押圧体を搬送手段に対して変位させる構成を採用し、押出ヘラ13が保持移送装置に対して、作動杆の支点を中心とした円の円周に沿って「円弧状に」変位するもの(被告公報第3図)であり、その変位方向を同図を利用して描くと別紙2の赤線方向となる。
(三) 以上のとおりであるから、先願の被告発明の技術的範囲を包含しないように、その技術的範囲と抵触する部分を除いた範囲内に本件発明の技術的範囲を限定すると、本件発明の構成要件(3)にいう、<1>「互に弾性的に変位」する変位の態様は、搬送手段を腹部押圧体に対して変位させる構成に、また、<2>「垂直な方向」は、円周に沿う「円弧状の略垂直な方向」を含まない、特許請求の範囲の文言の字義どおり直線の「垂直な方向」に限定されるべきである。
(原告らの主張)
(一) 一般に特許発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められなければならないのであるが、特許請求の範囲の記載だけではその発明の技術的範囲を確定できないような場合は、発明の詳細な説明及び図面を参酌して、発明の技術的範囲を確定しなければならない。被告発明では、特許請求の範囲に「前記魚頭切断回転刃の前部には腹腔部を押圧してたら子を絞り出す発条で牽引された押出ヘラを擺動自在に設け」と記載されているのみで、そこでいう押出ヘラが発条で牽引されることと擺動自在であることは示されているが、右記載だけからは、当業者が発条による牽引方向及び押出ヘラの変位の態様及び方向その他の具体的技術内容を把握することは不可能である。したがって、被告発明の技術的範囲を理解するためには発明の詳細な説明及び図面を斜酌しなければならないところ、右説明中にも、「発条10で牽引された作動杆11が保持移送装置9の進行方向と略直交するように軸支される」旨の記載(被告公報2欄30~32行)があり、その実施例を図示する第3図によれば押出ヘラ13は魚体の進行方向とほぼ「平行」に変位するものが開示されている(別紙「押出ヘラ13の擺動軌跡図」中(a)で示したものが変位の線)ものの、作動杆11を軸支したその軸支点の位置そのものが変位すること、すなわち軸支された作動杆11自体が保持移送装置9の進行方向と略直交する方向に変位することについてもまた、作動杆11の先端下部に固定された押出ヘラ13が保持移送装置9の進行方向と略直交する方向に沿って変位することについてもなんら記載がなく、他に発明の詳細な説明及び図面の全体を検討しても、保持移送装置9と作動杆11ないし押出ヘラ13とが、保持移送装置9の進行方向と略直交する方向に沿って互いに変位することを示唆する記載もない。
そうすると、被告発明の技術的範囲は、発条で牽引された押出ヘラ13が「作動杆11の支点を中心とした円の円周方向」であって、かつ、保持移送装置9の進行方向に沿っで「略平行」に変位する構成にのみ及ぶものであり、その限度を超えてあらゆる牽引方向・擺動方向を含む構成に及ぶものとは到底理解できない。したがって、押出ヘラの変位方向が「円周方向」であって、かつ、「略垂直」な方向であるものは、明らかに被告発明の技術的範囲には属さない。
これに対し、本件発明は、「腹部押圧体と上記搬送手段を走行軌道と垂直な方向に沿って互に弾性的に変位させる」ことを発明の実質的内容とするものであり、被告発明のように、押出ヘラ(腹部押圧体)が作動杆の支点を中心とした円の円周方向であって、かつ、移送装置の進行方向(走行軌道)に沿って「略平行」に変位するものではないから、本件発明と被告発明とはその技術的範囲に重複はなく、両発明の間で先後願関係は問題とならない。
(二) 本件発明の特許請求の範囲にいう「垂直」の語が厳密に幾何学的な意味で用いられているのではなく、ある程度の変位方向の誤差と幅をもつものとして用いられていることは当業者にとって自明のことである(本件発明のような魚の卵巣取出し装置において、厳密に幾何学的な意味での「垂直」は技術的には要求されないことは明らかである。)。また、本件発明の発明の詳細な説明及び図面を検討しても、あるいは本件発明の目的、作用効果から考えても、右の「垂直な方向」を厳密に直線的に「垂直な方向」に限定して解釈すべき根拠はない。
したがって、本件発明の構成要件(3)の「垂直な方向」とは、これを合理的に解釈すれば、多少の誤差があっても、当業者の判断に基づき、走行軌道に対して「略」垂直な方向に沿ったものと認められれば足り、それ以上に厳密に幾何学的に解釈しなければならないという被告主張は、本件発明の目的と作用効果を無視した議論というべきである。
このように考えれば、被告装置の円周に沿う「円弧状の略垂直な方向」は、本来的に本件発明の構成要件(3)の「垂直な方向」という語句が予想した方向であり、これを本件発明の技術的範囲から除外すべき理由はない。
二 争点2(被告が賠償すべき損害金額)
(原告会社の主張)
被告は、被告装置を、平成元年一月初旬から平成二年四月初旬までの間に約五五台、同月中旬から平成四年三月末頃までの間に少なくとも九〇台それぞれ販売した。被告装置の一台当たりの平均的販売価格は八二〇万円であり、純利益率は一一・〇パーセントを下回ることはないから、被告が本件特許権の独占的通常実施権の侵害により得た純利益の額は合計金一億三〇七九万円を下らず、原告会社が被った損害の額は、特許法一〇二条一項の類推適用により、被告が被告装置の販売によって得た右純利益の額と同額と推定される。
第四 争点に対する判断
一 争点1(被告装置は本件発明の技術的範囲に属するか)
1 本件発明の技術的範囲は、先願の被告発明の技術的範囲を包含しない範囲内に、限定されるか
原告ら主張のように、本件特許請求の範囲にいう「垂直な方向」が円周に沿う「円弧状の略垂直な方向」を包含し、同「腹部押圧体」が「魚の腹部を押圧してその卵巣を取り出す作用を有する物体」を指称するものと解した場合には、
(一) 被告発明にいう「たら子採取装置」は、本件発明の構成要件(5)の「魚の卵巣取出し装置」に該当し、かつ、後者は前者より上位の概念であり、
(二) 被告発明にいう「魚体腹部を進行方向に向けて載置移送する移送装置を尾部側が下方に傾斜するように設置し、該移送装置の先端部分に魚頭切断回転刃を設けると共に前記移送装置の少くとも先端部分から前方に向け魚体胴部後側部分を上下両側から挟持する保持移送装置を設置し」から魚頭切断装置部分を除いた残部は、本件発明の構成要件(1)の「魚頭が除去された魚を所定の軌道に沿って搬送する搬送手段」に該当し、かつ、後者は前者より上位の概念であり、
(三) 被告発明にいう「前記魚頭切断回転刃の前部には腹腔部を押圧してたら子を絞り出す……押出ヘラを設け、更に該押出ヘラの上下両側には魚体案内片を形成した」は、本件発明の構成要件(2)の「その軌道上を走行する魚体の腹部を尾部から頭部に向かう向きに押圧する腹部押圧体」に該当し、かつ、後者は前者より上位の概念であり、
(四) 被告発明にいう「発条で牽引された押出ヘラを擺動自在に設け」は、本件発明の構成要件(3)の「その腹部押圧体と上記搬送手段を走行軌道と垂直な方向に沿って互に弾性的に変位させる弾性支持手段とを有し」に該当し、
(五) 被告発明にいう「前記魚頭切断回転刃の前部には腹腔部を押圧してたら子を絞り出す発条で牽引された押出ヘラを擺動自在に設け、更に該押出ヘラの上下両側には魚体案内片を形成したたら子採取」は、本件発明の構成要件(4)の「卵巣をもつ魚体が上記腹部押圧体を通過するときに卵巣が取出されるよう構成」に該当し、
かつ、後者は前者より上位の概念であるから、被告発明(乙第二号証及び弁論の全趣旨によれば、被告発明の願書に最初に添付した明細書及び図面に記載されていたと認められる。)の技術的範囲は、本件発明の技術的範囲に包含されてしまうことになる(後願の本件発明の技術的範囲の方が、先願の被告発明の技術的範囲よりも広いことになる。)。
しかし、特許出願に係る発明が当該特許出願の日前の特許出願であって当該特許出願後に出願公告又は出願公開がされたものの願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明と同一である場合は、後行の特許出願は拒絶査定される定めになっている(特許法四九条、二九条の二)から、前記の如き結論に至る原告ら主張が許される余地はなく、本件発明につき特許査定され、本件特許権が有効に存続している以上、本件発明は、その技術的範囲に先願の被告発明の技術的範囲を包含しないものとして、特許されたものと認めざるを得ない(本件発明の技術的範囲が原告ら主張のとおりとすると、本件特許には無効理由があることになる。)。
なお、原告らは、本件発明は、「腹部押圧体と上記搬送手段を走行軌道と垂直な方向に沿って互に弾性的に変位させる」ことを発明の実質的内容とするものであり、被告発明のように、押出ヘラ(腹部押圧体)が作動杆の支点を中心とした円の円周方向であって、かつ、移送装置の進行方向(走行軌道)に沿って「略平行」に変位するものではないから、本件発明と被告発明とでは、発明の同一性を欠いており、両発明の間で先後願関係は問題とならない旨主張する。
しがし、本件特許出願願書添付明細書及び図面中にも、発明の詳細な説明中に、「…刃19が設けられている。軸17の両端はスプリング20、20により弾力的に支持され、魚体の大小、硬柔に応じて適宜変位する。」との記載(公報3欄27~30行)、「コンベア31、32の軌道を規定するガイドローラ34がばね35により弾性的に支持されている。」との記載(同4欄41~43行)、「腹部押圧体44が腹部を尾部から頭部の方へ摺動して卵巣を押し出す。」との記載(同5欄15~16行)等があるだけで、腹部押圧体を「垂直な方向に沿って互に弾性的に変位させる」ことの技術的意義についてなんら積極的に開示されていないし、これを示唆するところもなく、発明の効果としても単に「本発明によれば、魚体の大小等のばらつきにもかかわらず、常に確実且つ卵巣にいささかも損傷を与えることなく、卵巣を取り出すことができる。」との記載(同6欄3~6行)がみられるだけである。そして、図示された実施例ではすべて三例とも、腹部押圧体と搬送手段とは走行軌道と正確に「垂直な方向」に変位している状態が明示されている(第2・5・6・7図)。
他方、被告発明の場合も同様であって、その発明の詳細な説明中には、被告発明の特許請求の範囲記載の「魚頭切断回転刃の前部には腹腔部を押圧してたら子を絞り出す発条で牽引された押出ヘラを擺動自在に設け」の実施例として、「移送ベルト3寄りには先端を発条10で牽引された作動杆11が保持移送装置9の進行方向と略直交するように軸支されると共に該作動杆11の先端下部には上下両側に魚体案内片12、12を一体に折曲形成した断面〕型の押出ヘラ13が略腹腔部後側と対向するように固定されている。」との記載(被告公報2欄30~35行)、
「押出ヘラ13の腹腔部に対する弾圧作用と魚体胴部前側の柔軟屈曲作用とによって腹腔部を圧迫されながら押出ヘラ13を通過してたら子は魚頭切断部より絞り出されて採取される」との記載(同3欄10~13行)があり、右実施例に相当する発条で牽引された押出ヘラ13と作動杆11の形状及び作動杆11の支点を中心とした円の円周方向に押出ヘラ13が変位する状況が図示されてはいるものの
(第3図)、発明の効果としては、単に「特にたら子の採取処理は押出ヘラの発条による腹腔部に対する弾圧作用と魚体の胴部前側部分の柔軟屈曲作用とによって人間が手で絞り出すと同様な無理のない圧迫力を腹腔部に加えながらたら子を魚頭切断部から円滑確実に絞り出すことができ」との記載(同4欄7~12行)がみられるだけであって、「押出ヘラを擺動自在に設け」ることの技術的意義、さらには押出ヘラの擺動の態様及び方向を限定する趣旨の格別の記載はなく、これらの記載に照すと、右押出ヘラは、擺動の態様及び方向に特別の限定はなく、「人間が手で絞り出すと同様な無理のない圧迫力を腹腔部に加えながら」、「腹腔部を圧迫」するように「擺動自在」とする作用効果を果たすものであれば足りると考えられる(なお、「擺動自在」の「擺」(ハイ)とは、「ひらく」、「おしひらく」の意味であり、被告発明の前記実施例を参酌すると、被告発明における「擺動自在」とは、「無理のない圧迫力を腹腔部に加え」るように、発条の作用を利用して搬送されて来る魚体の大きさ等に応じて適度に回動する〔支持体の支点を中心とする円の円周に沿って変位する〕ことができるようにする意味と解するのが相当である。)。
これを具体的に実施例についてみると、被告発明の詳細な説明及び図面第3図で開示された実施例を若干変更し、作動杆11の支点を同図左側に寄せて先端側を同図右側に向けて傾斜させ(魚体の進行方向と直交していた作動杆の設定を、広角に変更し)たものも被告発明の技術的範囲に入ることは明らかであるが、その場合、作動杆11の先端に固定された押出ヘラ13の「擺動」による変位は、魚体進行方向に、「略平行」ではなく、垂直方向への変位が大きくなり、水平と垂直が合成された方向(作動杆支点を中心とした円周上の円弧に沿うもの)になることは明らかである。
したがって、被告発明における押出ヘラの変位が魚体進行方向に「略平行」であるものであることを前提とする右原告ら主張は採用できない。
そして、被告発明の「押出ヘラの発条による腹腔部に対する弾圧作用と魚体の胴部前側部分の柔軟屈曲作用とによって人間が手で絞り出すと同様な無理のない圧迫力を腹腔部に加えながらたら子を魚頭切断部から円滑確実に絞り出す」作用効果をより効果的に発揮させるため、被告装置においては、押圧部材14は、連結アーム65の端部にナット、プレート67、67を介して設け、連結アーム65、取付部材64、下向きのアーム63、支軸62、レバー69、引っ張りばね71及びばね受部材70等からなる弾性支持手段により背部受止フレーム12側に、支軸62を支点として弾性付勢し、水平面上を無端挟持ベルト3、4及び無端搬送挟持手段5の走行軌道と略垂直な方向(支軸62を中心とする円の円周方向)に沿って弾性的に揺動し変位するように構成し(別紙物件目録三(7))ていると認められ、被告装置における右構成は、被告発明にいう「腹腔部を押圧してたら子を絞り出す発条で牽引された押出ヘラを擺動自在に設け……た」構成の一実施態様(支軸62を支点として押出ヘラを擺動自在に設けた構成)と認めることができる。
2 本件発明の構成要件(3)について
前項説示のとおり、本件発明の技術的範囲が被告発明の技術的範囲を除いた範囲に限定される以上、本件発明の構成要件(3)の「走行軌道と垂直な方向」は、少くとも被告発明の技術的範囲に属する円周に沿う「円弧状の略垂直な方向」も含むものではなく、まさにその字義どおりの直線的に「垂直な方向」に限定されるものと解すべきである。そして、被告装置における押圧部材14の変位は支軸62を中心とする円周に沿う「円弧状の略垂直な方向」であり、直線的に「垂直な方向」ではないことは当事者間に争いがないから、被告装置は本件発明の構成要件(3)を欠いているというべきである。
なお、被告は、右の点のみならず、腹部押圧体(及び搬送手段)の変位の態様についても、先願の被告発明の技術的範囲を包含しないように、「搬送手段を腹部押圧体に対して変位させる構成」に限定されるものと解すべきである旨主張するが、被告発明の技術的範囲に、「押圧部材を走行軌道と直線的に垂直な方向に沿って変位させる構成」が含まれていると認めるべき資料はないから、右のとおり本件発明の変位方向を走行軌道と直線的に垂直な方向に限定すれば、更に被告主張の如く変位態様を限定しなくとも、本件発明の技術的範囲に被告発明の技術的が含まれることにはならないので、被告の右主張は採用できない。
二 結論
以上のとおりであるから、被告装置は本件発明の技術的範囲に属さず、その製造、販売は原告小川の本件特許権及び原告会社の独占的通常実施権を侵害する行為ではない。
よって、右各侵害を理由とする原告らの請求はいずれも理由がない。
(裁判長裁判官 庵前重和 裁判官 小澤一郎 裁判官 辻川靖夫)
(別紙)
物件目録
一 物件の種別・名称
魚卵採取装置(TOYO-六六〇型)
二 図面の説明
第1図は、一側面図。
第2図は、他側面図。
第3図は、簡略平面図。
第4図は、魚体を搬送手段に載置した状態を示す平面図。
第5図(1)は、その簡略縦断正面図。
第5図(2)は、同右(係止台枠8の形状のみが異なる。)。
第5図(3)は、同右(同右)。
第6図(1)は、頭部切断状態を示す簡略縦断正面図。
第6図(2)は、同右(係止台枠8の形状のみが異なる。)。
第6図(3)は、同右(同右)。
第7図は、魚卵採取工程を説明するための平面図。
第8図は、押圧部材作動機構の斜視図。
第9図は、各種押圧部材の側面図。
第10図は、プレート67の平面図。
三 被告装置の構造上の特徴
(1) 1は機台で、魚体aの腹部cを搬送方向に向けた状態で魚体頭部bを位置決めし、かつ頭部bから腹部cを尾部eに向かって斜め下方に傾斜させた状態にして水平方向に搬送するコンベアー装置2を配設しているとともに、該コンベアー装置2と平行にして、コンベアー装置2と後記無端搬送挟持手段5間に配設されて搬送途上で魚体aの腹部cと尾部e間の胴下半部dを挟持する上下一対の無端挟持ベルト3、4と、同じく搬送途上で尾部eを挟持する上下一対の無端搬送挟持手段5とを並設してある。
(2) コンベアー装置2は、魚体頭部bを載置する頭部載置台6を一定間隔毎に取付けている無端ベルト7と、魚体aの胸ビレ部fを係止させる係止台枠8及び腹部載置台9を一定間隔毎に取付けている無端ベルト10とからなり、魚体aの搬送始端、すなわち機台1の後端から前方に向かって機台中央部分にまで駆動ホイール21と従動ホイール22間に掛け渡されてある。
なお、係止台枠8の断面形状は、第5図及び第6図の各1、2及び3に示すとおり三種類のものがある。
(3) 頭部載置台6は、第5図に示すように、その上面が無端ベルト7の一端縁側から他端側に向かって徐々に深くなるように凹弧状に彎曲傾斜し、かつ無端ベルト7から上方に位置する頭部嵌合載置部6を有する。
(4) 11はコンベアー装置2の魚体搬送終端部寄りに配設した円形状の頭部切断カッターで、機台1に配設されたモーター23によって回転駆動されるものであり、その切断刃は前記頭部載置台6と胸ビレ係止台枠8間の間隙部内に斜め方向、すなわち、頭部載置面に直交する方向に挿入してある。
(5) 一方、魚体aの腹部cと尾部e間の胴下半部dを挟持する上下一対の無端挟持ベルト3、4において、下側ベルト4は機台1の全長に亘って駆動プーリー24と従動プーリー25間に無端状に掛け渡され、上側ベルト3は頭部切断カッター11の位置よりも後方寄り部分から搬送終端(機台の前端)まで駆動プーリー24と従動プーリー27間に無端状に掛け渡されている。
下側ベルト4には、前記コンベアー装置2の頭部載置台6等と同一間隔毎に胴下半部載置面部4を設けて頭部載置台6や係止台枠8、腹部載置台9と横方向に一列状態で移行させるようにしているとともに、該載置面部4、4間の端縁部上には背部受止フレーム12を固着してある。
(6) 頭部切断カッター11の位置より前方寄り(コンベアー装置2の前方)における機台1の前部には押圧部材14が配設されており、頭部bを切断除去され、無端挟持ベルト3、4及び無端搬送挟持手段5に挟持されて搬送される魚体aの腹部肛門側に当接し、尾部eから腹部cに向かう向きに押圧して、たら子を絞り出す。
なお、押圧部材14の形状には第9図に示すとおり、四種類の形状のものがある。
(7) 前記押圧部材14は、連結アーム65の端部にナット、プレート67、67を介して設けられ、連結アーム65、取付部材64、下向きのアーム63、支軸62、レバー69、引っ張りばね71及びばね受部材70等からなる弾性支持手段により背部受止フレーム12側に、支軸62を支点として弾性付勢されており、水平面上を無端挟持ベルト3、4及び無端搬送挟持手段5の走行軌道と略垂直な方向(支軸62を中心とする円の円周方向)に沿って弾性的に揺動し変位するように構成されている。
(8) 前記プレート67、67は、押圧部材14の上下両側に、ナットを介して取付けられ、第10図に示すように短径は押圧部材14の円柱直径と略同長で、その長径は押圧部材14の円柱直径より長い略楕円形の薄板である。
第1図
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第2図
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第3図
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第4図
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第5図 (1)
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第6図 (1)
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第5図 (2)
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第6図 (2)
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第5図 (3)
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第6図 (3)
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第7図
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第8図
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第9図
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第10図
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特許公報(1)
<19>日本国特許庁(JP) <11>特許出願公告
<12>特許公報(B2) 昭62-32895
<51>Int.Cl.4A 22 C 25/14 識別記号 庁内整理番号 2104-4B <24><44>公告 昭和62年(1987)7月17日
発明の数 1
<54>発明の名称 魚の卵巣取出し装置
<21>特願 昭58-103188 <65>公開 昭59-227237
<22>出願 昭58(1983)6月8日 <43>昭59(1984)12月20日
<72>発明者 小川豊 茨木市中津町12の8
<71>出願人 小川豊 茨木市中津町12の8
<74>代理人 弁理士 西教圭一郎 外3名
審査官 松田一弘
参考文献 特開 昭52-154798(JP、A) 特開 昭53-138896(JP、A)
特開 昭53-139774(JP、A) 特開 昭59-102349(JP、A)
<57>特許請求の範囲
1 魚頭が除去された魚を所定の軌道に沿つて搬送する搬送手段と、その軌道上を走行する魚体の腹部を尾部から頭部へ向かう向きに押圧する腹部押圧体と、その腹部押圧体と上記搬送手段を走行軌道と垂直な方向に沿つて互に弾性的に変位させる弾性支持手段とを有し、卵巣をもつ魚体が上記腹部押圧体を通過するときに卵巣が取出されるよう構成された魚の卵巣取出し装置。
発明の詳細な脱明
本発明は魚の卵巣取出し装置に関する。
従来の魚類、例えばタラの卵巣取出し装置は、ナイフを用いて魚腹部を開腹し卵巣を取出す方法であつたから、魚体の大小、姿勢のばらつき、卵巣の大小のために、卵巣を損傷したり、卵巣が取出せなかつたりする欠点があつた。
本発明の目的は、卵巣を損傷することなく取出すことができ、構成がきわめて簡単な卵巣取出し装置を提供することにある。
本発明の卵巣取出し装置は、魚頭が除去された魚を所定の軌道に沿つて搬送する搬送手段と、その軌道上を走行する魚体の腹部を尾部から頭部へ向かう向きに押圧する腹部押圧体と、その腹部押圧体と上記搬送手段を走行軌道と垂直な方向に沿つて互に弾性的に変位させる弾性支持手段とを有し、卵巣をもつ魚体が上記腹部押圧体を通過するときに卵巣が取出されるよう構成されたことを特徴としている。
以下、本発明の実施例を図面に基いて説明する。
第1図に本発明実施例の全体を示す正面図を示し、第2図に本発明の要部の拡大図を、第3図にその要部の側面図を示す。
ホイール1は水平軸2を中心に回転する円板から成り、外周に沿つて等間隔に魚頭受け具3…3が配設されている。この魚頭受け具3はホイール半径方向の外方に開口する袋状であつて、底部に魚頭の先端に当接する当て板4が取付けられ、ホイール1の側面から魚頭部を固着するための串を貫入する孔5、並びに、フオークを打ち込むためのスリツト6が穿たれている。ホイール1の側面には軸2と同心のカム(図示せず)が設けられており、孔5に串を貫入又は抜き取り、スリツト6にフオークを貫入又は抜き取るようになつている。このカムの形状は、魚頭受け具3が真上の位置から15°ないし60°回転した位置で串が魚頭を刺し、75°ないし100°回転した位置でフオークが魚頭に打ち込まれ、また、串およびフオークが共に真上から約270°回転した位置で魚頭から抜き取られるよう形成されている。
ホイール1の下方には、魚体の身長よりもやや短い空間を隔てて、チエーン7が走行している。このチエーン7は駆動スプロケツト8、従動スプロケツト9により上側走行軌道10と下側走行軌道11に沿つて走行する。さらに、このチエーン7は第4図に示すように、互に並行して走行する二条のチエーン7A、7Bにより構成されており、互に対向する側のピンリングプレートにベントアタツチメント12A、12Bが一体形成され、その先端部の三角形の凹凸で魚体の尾部を挟持するようになつている。また、二条のチエーン7A、7Bの対向間隔は、上側走行軌道10において開いた状態から次第に接近し、ホイール1の軸2の真下を通過した後は近接状態になり、この近接状態は魚体の投下位置まで維持される。
チエーン7の上側走行軌道10の前半部上方には、魚体尾部がチエーンに接触するのを防止するための遮蔽板12が設けてあり、駆動スプロケツト8の周辺から下側走行軌道11の下方にかけて、魚体の姿勢を保持するための摺動板13が設けてある。また、ホイール1が軸2の真下を通過して上昇に転じたのちに放出される魚頭を受けるためのシユート14が設けられている。
チエーン7の下側走行軌道11には卵巣取出し部15が設けられている。この卵巣取出し部15は、第2図及び第3図に示すように、魚体通路の左右両側に設けられた支柱16、16のスリツトに軸17を、スリツトの長手方向に変位自在で且つ軸自体回転しないように支持し、その軸17に所定方向に傾斜し先端の稜18が魚腹に切込まない程度丸められた刃19が設けられている。軸17の両端はスプリング20、20により弾力的に支持され、魚体の大小、硬柔に応じて適宜変位する。刃19よりもチエーン7に近い位置に、魚体の逃げを抑えるための左右一対の背当てガイド21、21が設けられている。この卵巣取出し部15の下方には卵巣を受けるシユート22が設けられ、卵巣取出し部15よりもやや下流の魚体投下位置の下方に魚体を受けるシユート23が設けられている。
次に作用を説明する。
ホイール1は所定の回転角速度で連続回転し、その周速度よりも格段に速い速度でチエーン7が走行している。ホイール1の魚頭受け具3が軸2の真上に達すると魚頭を下に向けた魚体Fが投入される。次に孔5から串が突入して魚頭を貫通し、魚頭を受け具3に固着する。次に、スリツト6からフオークが突入して中骨の付け根及びそこから後頭部に至る部位の骨と筋肉を破壊する。魚体の自重により魚尾が下方へ曲つた姿勢のまま、魚尾が遮蔽板12に当る。このように曲つた姿勢の魚体は、遮蔽板12の終端を過ぎると直ちに鉛直に垂下し、尾部がチエーン7に挟着される。チエーン7の走行速度はホイール1の周速度よりも格段に速いため、魚体が引張られ、まずフオークにより破壊された部位が引きちぎられ、つづいて腹部に引張力が集中して腹部も引きちぎられる。腹部が引きちぎられるとき、消化器系等の内臓物も引き抜かれ、その際、腔門も引き抜かれるので卵巣の産卵口につながる部位が破壊され、卵巣の取出しを容易にする。また、内臓物とともに腹部の皮が引き裂かれて卵巣の一部が露出する。
その後、チエーン7に挟着された魚体はスプロケツト8を通り過ぎて下側走行軌道11へ移り、摺動板13上を摺動し、やがて卵巣取出し部15に達する。ここで、刃19の先端が魚腹の尾部に近い部位に触れ、チエーンの走行につれて卵巣を奥から押し出す。このとき、背当てガイド21、21が支柱16、16の上方内方側に強固に固定されており、この背当てガイド21、21が魚体が通過する際に魚体の背部を押圧しているため、魚体が上方へ逃げることがない。押し出された卵巣はシユート22上に取り出される。つづいてチエーン7が開いて挟着していた魚体を放ち、シユート23上へ落下する。
この実施例のように、中骨の根元をカツタで切断したのち魚頭を引きちぎる方法は、魚頭とともに消化器系内臟物が引き抜かれ、そのとき産卵口が破壞されるので、特に卵巣を押し出し易くする効果がある。
次に本発明の他の実施例を説明する。
第5図にこの実施例の平面図を示し、第6図に横断面図を示す。
カツタによる切断または引きちぎり等により予め頭部の除去された魚体が、上側コンベア31と下側コンベア32から成る挟持型搬送コンベアにより、魚体の背部が挟持されて、魚尾を先にして搬送され、魚体の腹部に接触する所定位置に、軸に対し回動自在のローラ33が設けられ、コンベア31、32の軌道を規定するガイドローラ34がばね35により弾性的に支持されている。この、ばね35に代えてコンベア自体の張力による弾性を利用することもできる。
本発明の腹部押圧体は、先端が丸められた刃、ローラに限るものではなく、棒、線体、板など各種形状の部材を用いることができ、更にこれらにバイブレータを付加して振動させながら卵巣を取り出すこともできる。
第7図に本発明の更に他の実施例を平面図を示す。魚体搬送コンベア41にはチエーンの走行方向Rに対し横方向の魚体搬送具43…43が並設されており、弾性力等により魚体の背部が左右から挟持され、あるいは尾部が係止具で止められている。腹部押圧体44はこの走行方向Rに対し所定角だけ傾斜した緑を有している。従つて、頭部を切断除去された角体が腹部を上にして挟持搬送されてくると、腹部押圧体44が腹部を尾部から頭部の方へ摺動して卵巣を押し出す。この実施例の変形例として、魚体搬送具が魚体を充分に挟持している場合、コンベア41の下側走行路に腹部押圧体を設けて実施することもできる。
本発明によれば、魚体の大小等のばらつきにもかかわらず、常に確実且つ卵巣にいささかも損傷を与えることなく、卵巣を取り出すことができる。
図面の簡単な説明
第1図は本発明の一実施例の全体を示す正面図、第2図は第1図の卵巣取出し部15を拡大して示す正面図、第3図は第2図の側面図、第4図は第1図のチエーン7の部分を示す平面図である。第5図は本発明の他の突施例を示す平面図、第6図は第5図の横断面図である。第7図は本発明の更に他の実施例を示す平面図である。
7…チエーン(搬送手段)、15…卵巣取出し部、17…軸、19…刃(腹部押圧体)、20…スプリング、22…卵巣取出しシユート。
第1図
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第2図
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第3図
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第4図
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第5図
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第6図
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第7図
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特許公報(2)
<19>日本国特許庁(JP) <11>特許出願公告
<12>特許公報(B2) 昭59-26257
<51>Int.Cl.3A 22 C 25/14 識別記号 庁内整理番号 7421-4B <24><44>公告 昭和59年(1984)6月26日
発明の数 1
<54>たら子採取装置
<21>特願 昭56-195306
<22>出願 昭56(1981)12月4日
<65>公開 昭58-98035
<43>昭58(1983)6月10日
<72>発明者 石田袈裟登
崎玉県北葛飾郡庄和町西金野井338-24.6
<72>発明者 吉崎照光
函館市上野町145-34
<71>出願人 函館公海漁業株式会社
東京都港区東新橋1丁目3番9号
<74>代理人 弁理士 横田実久
<57>特許請求の範囲
1 魚体腹部を進行方向に向けて載置移送する移送装置を尾部側が下方に傾斜するように設置し、該移送装置の先端部分に魚頭切断回転刃を設けると共に前記移送装置の少くとも先端部分から前方に向け魚体胴部後側部分を上下両側から挟持する保持移送装置を設置し、前記魚頭切断回転刃の前部には腹腔部を押圧してたら子を絞り出す発条で牽引された押出ヘラを擺動自在に設け、更に該押出ヘラの上下両側には魚体案内片を形成したたら子採取装置。
発明の詳細な説明
本発明はすけそうだら、その他のたらからたら子を効率良く採取する装置に関する。
従来たら類からたら子を機械的に連続して採取することが試みられているが、たら子が腹腔内を移動するため魚頭切断時たら子までも切断したり、腹腔内からたら子を取り出すために魚体を傷めたりして魚体及びたら子の双方を傷めずに円滑確実に取り出すことが困難であり、従つて未だに手作業によつて採取しているのが現状である。
本発明はこれらの欠陥を極めて簡易な構成によつて改善するようにしたもので、魚体腹部を進行方向に向けて載置移送する移送装置を尾部側が下方に傾斜するように設置し、該移送装置の先端部分に魚頭切断回転刃を設けると共に前記移送装置の少くとも先端部分から前方に向け魚体胴部後側部分を上下両側から挟持する保持移送装置を設置し、前記魚頭切断回転刃の前部には腹腔部を押出してたら子を絞り出す発条で牽引された押出ヘラを擺動自在に設け、更に該押出ヘラの上下両側には魚体案内片を形成したことを要旨とするものである。
本発明の実施例を図面について説明すると、魚体を載置移送する移送装置1は、魚頭部を支承する移送ベルト2とこれと同長の胴部前側を支承する移送ベルト3と、前記移送ベルト2、3より長く形成された胴部後側を支承する移送ベルト4と尾部を支承する移送チエーン5とから構成され、魚体を腹部を進行方向に向けて載置移送するように形成されると共に尾部側が低くなるように略10度前後傾斜して設置されている。
また前記移送ベルト1、2の先端部における間には魚頭切断回転刃6が適宜動力で回転するように軸支されると共に移送ベルト3と移送チエーン5の前半部分の上部には胴部後側及び尾部を挟着保持するように上側移送ベルト7と上側移送チエーン8が張設され、これらによつて魚体の胴部後側部分を挟持する保持移送装置9が形成されている。
しかして前記魚頭切断回転刃6の前部における移送ベルト3寄りには先端を発条10で牽引された作動杆11が保持移送装置9の進行方向と略直交するように軸支されると共に該作動杆11の先端下部には上下両側に魚体案内片12、12を一体に折曲形成した断面〕型の押出ヘラ13が略腹腔部後側と対向するように固定されている。
本発明実施例は上記のように構成されているからすけそうだら等のたら類をその魚頭切断部が移送ベルト2、3間に位置するように腹部を進行方向に向けて移送装置1上に載置すると、魚体は移送装置1上を移送された後その胴部後側及び尾部が保持移送装置9の移送ベルト4と上側移送ベルト7間及び移送チエーン5と上側移送チエーン8間に夫々挟着保持され、魚頭切断回転刃6に移送されて魚頭が切断される。
次いでこの魚頭を切断された魚体はその腹腔部後側が更に保持移送装置9によつて押出ヘラ13に当接し、押出ヘラ13の腹腔部に対する弾圧作用と魚体胴部前側の柔軟屈曲作用とによつて腹腔部を圧迫されながら押出ヘラ13を通過してたら子は魚頭切断部より絞り出されて採取されるものであり、この場合上下の魚体案内片12、12は腹腔部が押出ヘラ13から外れることを防止して押出ヘラ13による絞り出し作用を円滑にならしめる。
なお前記実施例における保持移送装置は胴部後側の挟持と尾部の挟持の二箇所での挟持を例示したが、挟持力が大きいときは一箇所で挟持したり、挟持力を大きくするために更に上部移送ベルトの上部に押圧ロールを設けたりすることもでき、また押出ヘラは絞り出し作用を確実にするため二個以上設置することもできる。
本発明は尾部が下方に傾斜するように設置された移送コンベヤで魚体を腹部を進行方向に向けて移送し、魚頭切断及びたら子の絞り出し処理は魚体の胴部後側部分を保持移送装置で上下両側から挟持して行うようにしたので、魚頭切断時には腹腔内のたら子は腹腔後部の肛門部に寄せられ魚頭切断回転刃で切断損傷されることがなく、押出ヘラで絞り出されると共に特にたら子の採取処理は押出ヘラの発条による腹腔部に対する弾圧作用と魚体の胴部前側部分の柔軟屈曲作用とによつて人間が手で絞り出すと同様な無理のない圧迫力を腹腔部に加えながらたら子を魚頭切断部から円滑確実に絞り出すことができ、しかも押出ヘラはその上下側に形成された魚体案内片によつて腹腔部から外れることなく絞り出し作用を一層円滑に行うことができ、魚体及びたら子の双方を傷めることなく自動的かつ能率良く採取できる優れた特徴を有するものである。
図面の簡単な説明
第1図は本発明の平面図、第2図は同側面図、第3図は本発明の作動状況を示す一部切欠平面図である。
1……移送装置、6……魚頭切断回転刃、9……保持移送装置、10……発条、12……魚体案内片、13……押出ヘラ。
第1図
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第2図
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第3図
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別紙1の1
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別紙1の2
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別紙1の3
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別紙2
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別紙3
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別紙
押出ヘラ13の擺動軌跡図
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特許公報
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特許公報
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